創作小説「やられたらやり返すのが普通でしょ?」その1

「――白線の内側に……」

 

 いつもと同じ朝。

 駅のホームには、通学、通勤のために電車に乗り込もうと列を作って並ぶ人たちの背中があふれ返っていた。

 ほとんどの人たちは周りの人間に気を払ったりはしない。電車が止まり、ドアが開くのを待つ。電車から降りる人がいなくなってから、素早く電車の中に入る。その動きは急いでいるように思えた。

 私はベンチに腰を下ろしたまま、立ち上がることができなかった。

 いつもなら、私が乗らなくてはいけない時間の電車だ。これを逃すと、学校に着くのは完全に遅刻になってしまう。

 

 死んでしまったら、解決するだろうか。

 この電車の前に飛び出したら、誰かが悲しんでくれるんだろうか。

 

 そんなことを考えている私は、ただのバカなのかもしれない。

 きっと、私が死んでもあいつらは悲しむわけない。それどころか、いつものように嘲笑って終わりになる。邪魔な女が消えたと喜ぶだけ。

 それが悔しい。

 でも、もう限界だった。

 

「ケイちゃーん、お金貸して?」

 そう言った三住和香の声は、目を閉じて聴いているだけならとても可愛らしい声だと言える。

 地毛だという彼女の髪の毛は少し茶色く、細身の身体つきと派手な顔立ちによく似あっていた。

 私は彼女と小学校から同じ学校に通っていて、小学生の頃はそれなりによく会話をした。

 でも、いつしか上下関係ができた。そのきっかけはよく解らない。

 彼女は友達も多く、私という存在はクラスの中にいる知り合い程度。

 彼女は彼女とよく似た人たちと付き合っていたし、クラスの中でも目立つ存在だった。それは中学に上がってからも変わらなかった。

「可愛い時計じゃん」

 いつだったか、誰かがそう言うのが聞こえ、和香が低く笑う声がそれに続いた。

「でしょ? パクってきたの」

「え、マジ?」

「マジマジ。結構簡単だったよ。ちょっと、つないである紐みたいなのを切るのに手間取ったけど」

「やるじゃーん」

 万引きか。

 私はそう気づくと、ちょっとだけ彼女に対する嫌悪感が芽生えた。そして、それを受け入れている彼女の友達もどうかと思った。

 でも、自分には関係ないことだったし、学校の先生に言うこともしなかった。彼女たちはああいう人間なのだ。関わらずにすめば、それでいい。

 そう思いながら、上辺だけの笑顔で彼女たちとクラスメイトとして接していた。

 それを気づかれたのだろうか、ただ単に私のことが気に入らない存在だと思ったのか、いつからかイジメが始まった。

 

 最初は、何故か私を汚物扱いすることから。

「きもーい」とか、「くさーい」とか、すれ違うたびに言われるようになった。それに追随するかのように、彼女の周りにいる人間も私をそんな風に接するのが当たり前になった。

 正直、そのくらいだけだったら我慢できた。

 別に、中学には彼女たちだけがいるわけじゃない。他に仲良くしてくれる友人もいたし、気にしなければ一日が安穏として終わる。

 それがだんだん時間が過ぎるごとに彼女の態度は悪化していく。

 私がおとなしく受け入れていることが嬉しかったのか、それとも笑って誤魔化すような態度の私が気に入らなかったのか、彼女は『増長』した。

 正に増長というにふさわしいイジメだった。

 言葉だけじゃない、物理的な攻撃。

 

「ケイちゃんちって、母子家庭なんだって?」

 ある時、彼女は取り巻きの連中を周りに従えつつ、私を見下すかのように言った。その声には悪意しかない。そして、歪んだ笑みはただ醜かった。

 放課後、ほとんどのクラスメイトは部活に行ってしまって、教室の中には彼女たちと私しかいなかった。

 私は美術部に所属していて、美術室に向かおうと荷物をまとめていた時のこと。

「母子家庭ってアレでしょ? 生活保護ってやつ受けてんじゃないの?」

「えー、やだ、それって寄生虫じゃーん」

 そんなことを急に言われて、私は思い切り眉を顰めて首を横に振った。

「そんなんじゃないよ。お母さんはちゃんと」

「うわ、口ごたえするとか、何様?」

 和香の隣にいた女の子が私の肩をどついてくる。そして、私の肩を触った手を驚いたかのように見つめ直し、嫌悪の声を上げる。

「やだ、くっさ! 母子家庭ってお風呂にも入れないの? くっさいよ、こいつ!」

 お風呂にだって毎日入ってる。

 お母さんだって、ちゃんと働いてる。お父さんはいないから、その分、私に苦労をかけないように、残業だってしまくってお金を稼ぐ。生活保護なんて受けてない。

 それなのに、彼女たちは勝手に私を――私とお母さんを生活保護を受けているものだと決めつけて貶す。

 何なの、この人たち。

 その頃はまだ、私だって彼女たちに対する反抗心があった。彼女たちを睨み、その言葉を否定しようとした。

 でも結局は、多勢に無勢というやつだった。

 何を言っても、どうやっても彼女たちの態度は変わらなかった。

 

 そして、カツアゲされるようになった。

 

生活保護でもらったお金なんでしょ? 返してもらわなきゃ駄目じゃん」

 それが彼女たちの言い分だ。

 嫌がる私を押さえつけ、通学カバンを取り上げて財布を漁る。そして、毎月のお小遣いを取り上げられた。

 その頃から、私の周りから友達という存在が少しずつ消えた。

 いつも仲良くしていた友達が、和香たちの存在を恐れたのか、それとも彼女たちの嘘を信じたのか――いや、きっと巻き添えになることを恐れたのだろう――、遠巻きに私を見るようになった。

 私は助けて欲しかったから、最初は友達に言った。

「助けて。何をされているのか先生たちに言ってくれる?」

 

 でも、無視された。

 ぎこちなく笑いながら、私から遠ざかる。

 嘘でしょ?

 じゃあ、私が先生に言うしかない?

 

 でも、怖かった。大事になってしまったら、高校進学はどうなるだろう。

 

 私が我慢していたら、終わるかもしれない。

 中学にいる間の短い時間、我慢していれば。

 でも、何故か和香が私と同じ県立の高校に進学して絶望に変わった。

 私がその高校を選んだのは、『県立であること』、『絶対に落ちないランクの学校であること』。万が一、受験に失敗したら別の学校を受けるなんて考えられなかった。

 先に私立の学校を受験するなんてことは、家庭のお金的に厳しかった。お母さんを苦しめたくなかったから、できるだけお金をかけずに終わらせたかった。

 和香はその学校よりも偏差値の高い女子高に行くと聞いていた。

 だから安心していた。

 中学を卒業すれば、全部終わるのだ、と。

 

 でも、高校に進学しても何も変わらなかった。

 変わったのは、和香を取り巻く連中の顔ぶれだけ。

 その連中も、和香から何か吹き込まれたのか、私とお母さんが生活保護を受けている寄生虫だと思い込んでいたようだった。実際には違うと言っても、笑って聞き流された。

 そして、ただ不安な毎日が始まった。

 

 お母さんは毎日、帰りが遅かった。いつも、疲れて仕事から帰ってきた。体調もあまりよさそうではなかったし、帰ってくると必要な家事をこなして眠る。

 何度か相談したいと思ったけれど、できなかった。

 顔色のよくないお母さんに負担をかけたくなかった。

 

「お金貸してー」

 高校に進学してからのイジメというものは、暴力以外のものも含まれるようになった。単純に彼女たちの狙いは、私の財布だ。

「国からお金、もらってるんでしょー?」

 そんなことを笑いながら私に何度も話しかけ、絶対に戻ってこないと知りながらお金を差し出す。そんな日が続いた。

 まだ、この頃は多少なりとも、学校の先生に相談したら何か変わるかもしれないという期待はあった。学校にお母さんは呼び出されるかもしれないけど、カツアゲの件が公になれば、綺麗に片が付くような気がした。

 でも、暴力がさらに激しくなってくると、それも揺らいだ。

 

「その顔がムカつくんだよね」

 と言われながら蹴られ、殴られる。

「見えるところは駄目だよ。バレるじゃん」

 彼女たちも多少はイジメているということに対する後ろめたさはあったのか、それとも単純にこのイジメという遊びを長引かせるために頭を絞ったのか、目に見える場所に怪我はさせないようにしているようだった。

 ただ、制服の下の身体は彼女たちの暴力による内出血の痣はそこら中にあったし、これを先生に見せればいいとも思った。

 このままじゃダメだという気持ちも確かにあったし、何とか彼女たちに逆らわなくてはいけないという焦りもあった。

 でも。

 でも。

 

 ある時、私は彼女たちに引っ張られて学校の外へ連れ出された。

「カラオケじゃダメだよ。あそこ、監視カメラあるじゃん」

「じゃあ、どこ?」

「サリナんちは? まだ両親、帰ってきてない時間でしょ?」

「えー? 和香んち……遠いかあ」

 そんな会話を聞きながら、私は何とか逃げ出そうとタイミングを見計らった。でも結局、暴れるたびに足に蹴りを入れられ、私の身体は委縮して彼女たちに逆らうことができなかった。

 つくづく、ここで逃げ出せていれば、と思う。

 でも、後の祭りだ。

 

「この写真、ネットに流されたくなかったら解るよね?」

 和香はそう言って嗤った。

 歪んだ笑み。

 醜い笑み。

 

 私はその日、サリナという和香の取り巻きのうちの一人の家に連れ込まれ、無理やり制服をはぎ取られてスマホで写真を撮られた。

 下着すらつけていない、ところどころに痣が残る身体。

 必死に暴れ、写真を撮られまいと誰かを殴った覚えもある。でも、殴った誰かに腹を蹴られてその場に蹲った。そのみっともない恰好を必死に小さくして隠そうとしている間、スマホのシャッター音は途切れることがなかった。

 

「正直、お金、足んないんだよね」

 和香は鼻を鳴らしながら言う。「うちら、遊びにいくのにあれっぽっちじゃさ、何もできないの。だから、この写真をばらまかれたくなければ、ちょっとは頭と体を使いなよ」

「やめてよ……」

 私はただ泣いた。

 みっともなくてもかまわなかった。お願いします、と彼女に頭を下げた。裸のまま、身体をなんとか隠そうと必死に両腕で自分を覆いながら。

 写真を消してもらわなきゃ駄目だ。ただ、それだけが頭の中にあった。

「やーめーてーよーお」

 バカにしたような彼女の声が私の頭の上で響く。

「うわ、似てるー」

「バカっぽーい」

 そして、それに続く馬鹿笑い。

「どうして?」

 私は泣きながら叫ぶ。「私が何をしたっていうの!? 私、何かした? 何でこんなことするの!?」

「マジになっちゃってうぜー」

 和香はそこで笑みを消して私の髪の毛を掴んで引き上げる。その痛みに悲鳴を上げ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているであろう顔を彼女に向けながら懇願した。

「先生には絶対言わない! だから、もうやめて!」

「やめてください、でしょ、そこはさー」

「やめてください! お願いします!」

「ムカつくんだよね。あんた、頭がいいのか何だか解んないけどさ、うちらをいつも馬鹿にしたような目で見て、ずっと気に入らなかったんだよ」

 和香の声は冷ややかだった。

 そして、いつものような嘲笑はそこにはなかった。

「底辺は底辺らしく、似つかわしい態度ってもんがあるでしょ? なのにさ、自分は正しいって顔でうちらを見てるのが気に入らないっての」

 正直、彼女が何が言いたいのか解らなかった。

 ただ、私は自分でも意味の解らない謝罪の言葉を繰り返す。

 もう、厭だった。

 殴られるのも、お金を巻き上げられるのも、何もかも厭だった。

 

「援交ってあるじゃん?」

 和香がそこで意地の悪い笑みを浮かべた。「お金がないんなら、やってきなよ」

「えん……?」

 私はただ茫然として言葉を繰り返す。

 そして、一瞬遅れてやってきた嫌悪感に吐き気すら覚えた。

「やだ、そんなのは!」

「簡単だよ。金持ちのおっさんに近寄って、親に暴力受けてます、ご飯食べてませーん、とか言って金を引き出せばいいだけ」

「やだよ、やだ」

 まるで幼児のように「やだ」しか言わない私を見下ろしながら、彼女はただ笑う。

 ――嗤う。

「おぜん立てはしてあげる。うちら、やっさしー」

 

 もう、駄目だ。

 お母さんに言わなきゃ。

 先生に言わなきゃ。

 誰かに助けてもらわなきゃ。

 

 もう、私にはどうすることもできない。

 そんなことを考えながら、私は家に帰る。暗くて、誰もいないアパートの一室。夜遅く帰ってくるお母さんのために、ご飯の準備をしながら必死に考える。

 

「ごめん、ちょっと熱があって。明日、仕事から帰ってきてから聞くね」

 そんな言葉がお母さんから返ってきた時、何とか話を聞いてもらおうと食いついた。ちょっとだけでいい、相談に乗ってもらえたら。

「ねえ、圭子、お母さん、体調良くないの。解ってくれるよね?」

 重ねてそう言われた時、私は泣きそうになって唇を噛んだ。

 いや、涙がこぼれたのを見られたくなくて、黙って自分の部屋に駆け込んだ。その背後に、お母さんの深いため息を聞きながら、どうしてこうなってしまったんだろうと『何か』を恨んだ。

 

 何がいけなかったの?

 私、何も悪いことしてない。

 なのに、何でこんな目に遭うの?

 

「ほら、行ってきなよ」

 翌日の放課後、私は和香たちに腕を引かれて駅前のコンビニにいた。私の周りには和香の取り巻き連中がいて、どうやっても逃げられそうにない。

 彼女たちの視線の先には、駅から出てきたスーツ姿の人間がたくさんいる。

「誰でもいいよ、話しかければ」

 私はどうしても、それはできなかった。

 涙を浮かべながら俯く私を見て、和香が舌打ちする。そして、私の腕を掴んでコンビニから出た。

「人がいっぱいいて恥ずかしいんなら、ほら」

 駅から離れ、路地裏へと向かう。

 空は暗くなっていて、周りの居酒屋や飲食店賑わい始めている。そんな中、私たちは細い路地裏を歩き、薄暗いどこかの駐車場の前に立っていた。

 仕事帰りのサラリーマンが、駐車場にとめている自分の車に乗り込もうとしているのが見えた。

「できない」

 そう言った私の前に、和香がスマホを差し出してきた。

 その画面には、どこかのSNSらしきサイトがあった。

 そこに張り付けられた裸体。痣はあまり目立たなかったし、顔も写っていないけれど、間違いなくそれは私の裸だと解った。

「すっごいよ、昨日の夜アップしたんだけど、コメントめっちゃついてる。次は顔出しといこうか?」

 

 身体が震えてたまらなかった。

 嘘でしょ?

 本当に?

 

 絶対に上手くいくはずなんてない。

 今まで、彼氏なんていたことない。クラスの男子と話すことだって滅多にない。それなのに、私が誰か知らない大人の男性に声をかける?

 無理だ。

 でも、やらなきゃ次は。

 

 そして。

 

 この男性からお金をもらうか、盗んで逃げる。そうしなきゃ、私は。

 

 いや、違う。

 この男性に助けを求めれば、何かが変わる? 正直にイジメを受けている説明して、助けて欲しいと言えば。

 声をかけて、自分の身体についた痣の原因を説明し、援助交際を無理やりさせられそうになっていることを伝える。もう、警察沙汰になっても構わない。

 何とかしなきゃ、駄目だ。

 私は背後に和香の視線を感じながら、その男性に声をかけた。

 心臓が厭な音を立てている。

 

 ――助けて、ください。

 

 そう言って、困惑する男性の顔を見上げた。

「……えっ、そうなの? 嘘じゃないの?」

 彼は駐車場の真ん中で、困ったように辺りを見回した。和香たちはどこかに隠れているのか、こっそり私もその姿を探して見回してみたけど見つからなかった。

「でも、それが本当ならまずいでしょ。警察いく?」

「……はい、お願いします」

 これは、一世一代の賭けとも言っていい状況だった。もう、警察の手を借りなきゃどうにもならない。そういうところまで来ているはずだ。

 

 そして、彼に促されるまま、私はその男性の車に乗り込んだ。

「派出所より警察署の方がいいよ。その方がちゃんと話を聞いてくれる」

 男性がそう言って、車を走らせる。

 でも、彼は結局、警察署にも派出所にも行かなかった。焦る私を横目で見て笑いながら、「それが本当だとしても、まず、身体にある痣とか見せてもらってからだよね」と意味ありげに言う。

 

「やめてください」

「おろして」

「警察」

 

 何度も言った。

 凄いスピードで走る車から飛び降りようかと本気で思った。

 

 でも、その夜。

 私は彼に連れていかれたどこかの山の広い駐車場で。

 その車の中で、乱暴された。

 

「電車が参りますので、白線の内側に……」

 

 私はただ、電車がホームに入ってくるのを見つめ、発車するのを見送っていた。

 死んでしまったら楽になれる。

 何もかも終わる。

 昨日は結局、家に帰らなかった。帰れなかった。

 あの男性に乱暴された後、山を下りた場所で捨てられるかのように無理やり車から引きずり出された。

 そして私は、ただ歩いた。補導されてもおかしくない状況だった。でも、不思議と誰も私に声をかけてこなかった。深夜の繁華街を通り抜ける時も、周りが騒々しいだけで私の頭の中は静かだった。

 身体が痛かった。気持ち悪かった。自分が汚い存在になったことを理解していた。

 

 私は駅のベンチに座り込んだまま、ただ線路を見つめる。

 もう、無理だ。

 何も考えたくない。

 

 生きていたく、ない。

 

 そう考え、そっと顔を両手で覆う。涙がこぼれるのが解った。

 

「何で殺さないの?」

 

 それは最初、幻聴だと思った。

 男の子の静かな声。小さく、だけど間違いなく確かに聞こえた。

 私は一呼吸おいてから、手を下ろして辺りをそっと見回した。

 駅のホームには忙しそうな人たちの姿がたくさんあって、誰がしゃべったのかは解らなかった。

 誰も私を見ていないのは確かだった。

 でも、気づけばベンチの上、私のすぐ横に誰かのスマホが置きっぱなしになっている。画面は光っていて、何かがそこに映っている。

 私はもう一度辺りを見回してから、そのスマホを手に取った。

 

「バカじゃねーの。そこは復讐でしょ?」

 その画面の中で、見知らぬ少年がそう言った。

 黒くて短い髪、淡い緑色の瞳。日本人じゃないと一見して解る、美少年。アイドルかと言われてもおかしくない、完璧なまでに整った顔立ちの少年が私を馬鹿にしたような目つきで見つめている。

「……何これ。動画サイトとか、何かのアプリ?」

 私が困惑してそう呟くと、少年は片眉を跳ね上げて「はあ?」と言った。

 明らかに私の声に反応してるようだ。

「何だかその世界の人間ってバカっぽいな。やられたらやり返す。これ、普通でしょ?」

 彼がそう続けるのを、私はただぼんやりと見下ろしていた。