ホームベーカリーを買いました。

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ずっと前から気になっていた、ホームベーカリー。

いつか買おうと思って色々調べておきました。

安さか、人気機種か、ちょっと高くても評判が高いやつがいいか。悩みつつ、価格コム辺りで口コミやら何やらを見てました。

 

パナソニック象印、タイガー、ツインバード、シロカ、MKと色々なメーカーがそれぞれの利点を持って販売している感じ。

残りご飯を使ってもっちりパンがやけるよ! とか。

パンの耳がかりっと美味しいよ! とか。

専用ミックス粉の種類もたくさん出ているよ! とか。

 

全体的には、一番売れているメーカーはパナソニックなのかな、と思います。

 

でも、電気屋さんで見かけたタイガーの「GRAND X やきたて KBX-A100」が意外と安かったので、衝動的に買ってしまいました。

店頭在庫品限り、税込み二万。

 

そりゃもう、買った! ってな感じです。

 

「GRAND X」ってマツコ・デラックスがイメージキャラクターとしてCMを担当しているやつで、ちょっとだけ気になってはいたんです。

で、下調べをしていた時に、ネットでは最安値で22000円から23000円だったかな。ちょいと高いなー、と思って悩んでた。

 

でも、電気屋さんで税込み二万と言われたら、「新商品が出るか、GRAND Xシリーズのホームベーカリーは製造中止か?」とか瞬時に頭の中で考えて思った。

 

今が買いだ!

今を逃したら、新商品でもっと高くなるか、手に入らなくなるかだろうし、と。

旧製品は、もうちょっと値下がりするかもなー、と思ったけど、思い立ったが吉日ってやつですね。

 

早速、ミックス粉を使って焼いてみた。

ミックス粉+分量の水。

いやー、簡単! 美味しい!

焼きたてのパンって本当に美味しい!

 

手抜き料理万歳、の私なので、買ったモデルに間違いはなかったな、と思います。

 

ドライイーストなどはマシンが自動投入してくれます。

ボタン押したら放置しておいて、3時間半後には焼き上がる。

焼けたら簡単に取り出せて、お手入れも簡単。

 

なんだかんだいっても、手間がかかれば使わなくなるのが家電。炊飯器並みに簡単だから使い続けるわけだな、と思うのです。

 

そしてホームベーカリーを買った数日後、ネットにタイガーのホームベーカリーの新商品が告知されました。

「IHホームベーカリー<やきたて> KBD-X100」

9月11日発売。

無添加グルテンフリー食パンも美味しく焼ける、というのが売りのようで。

うん、流行ですものね、グルテンフリー。

 

しかし、オープンプライスで予想価格は4万弱とどこかで見かけて思った。

 

勝った!(何かに)

 

旧商品とはいえ、およそ半額で買えたんだし、いいんじゃないかな。

ちなみにタイガーのホームベーカリーって、小さい角食パンが焼けるんですよね。他のメーカーは、山形の普通の食パンだけみたいだけど。

気が向いたら、色々作ってみようとは思うけど、基本的には写真のような普通のパンだけ焼いてると思う。面倒だから。

 

ちなみに、写真のパンですけども。

 

焼き型ケースに水を入れ、ミックス粉を投入し、ドライイーストケースをセットし、ボタンを押して「ピー」と鳴った後に。

 

パンをこねる羽根を焼き型ケースにつけるの忘れたー! と、てんぱって無理やり粉を掻き分けて羽根を取り付けて焼き続行しました。

今日は膨らまないかも……と思ったけど、普通に焼けた。

何とかなるもんですね。

 

皆さんは、ホームベーカリーを使う時には羽根の取り付けを忘れないようにしてください。本当、びっくりした。

動画の前に流れるCMって心臓に悪い。

最近、インターネットエクスプローラーを開くと、マイフィードとやらにMSNのニュースやら動画やら大量に出てくるわけですが。

 

個人的には、ニュースとかならYahoo!を見た方が私的には好きです。全部ではないけれども、Yahoo!ユーザーのコメントがニュースについていたりして、ちょっとそれを覗いたりするのも楽しいです。

 

とはいえ、MSNのニュースやら動画にも気になるものがあると、ついアクセスしてしまうわけです。

 

が。

 

ここで不満を一つ。

可愛い猫の動画や犬の動画なんか、ホイホイアクセスしてしまう私への罠があるわけで。

それは、動画が始まる直前に、大音量で始まるCMです。これがまた、全く興味がない上に、大音量過ぎて動画を見る前に慌てて消す、ということを十回以上繰り返しています。

気が付けば、結局猫動画とか犬動画とか、そこで見たことはありません。

何十秒かの動画のために、CMを何十秒も見なくちゃいけないって、結構ストレスたまります。

それでも、ついアクセスして、心臓発作でも起こしそうなほどCMの音量にびっくりして、ああ、自分って学習しねえ……と思うわけですね。

 

大人しく、猫とか犬動画はYouTubeで見よう、と思う、そんな私です。

 

 

それと、全然話は変わるのですが。

スターをつけて下さった方に感謝! はてなのシステム、よく解りませんがめっちゃ嬉しいわけで。

創作小説「やられたらやり返すのが普通でしょ?」その3

「何、言ってるの」
 私は彼女の傍に近寄って、その小さく見える塊を見下ろした。
 彼女の目はどこか虚ろで、それなのに狂ったような輝きも見て取れる。怯えているようなのに笑い、楽しそうなのに苦しげで、私が知っている彼女とはあまりにもかけ離れていた。
「ねえ、ちょっと」
 私はそれでも彼女に声をかけようとしたけれど、私の声は聞こえていないようだ。
 それは、私が死んでいるから。幽霊だから、ということ?
「ちょっと!」
 さらに声を張り上げる。「あなたのせいで! 私は!」
「おーいおい、ねーちゃん」
 手のひらの中で響くアクセルの声が、私の焦燥をさらに激しくさせた。
「何よ、殺してくれるって言ったって、あなたは何ができるのよ!? スマホの中で、何が!」
 そうだ。
 私はこうしてここにいるのに、和香を殴ることもできないどころか、声すら届かない。
「あなたに、何かできるっていうなら、こいつを殺してよ!」
「ちっ、うっせえなあ」
 アクセルが不機嫌そうにそう吐き捨てるように言った直後、手のひらの中で光が弾けた。それは、今まで見た光の中では一番淡く、弱い。
 でも気づけば、目の前にアクセルが立っていた。
 スマホの中の存在としてではなく、そこにいる実在の肉体として。
「え?」
 わたしはぽかんと口を開いただろう。いつの間にか私の手の中にスマホの形はなく、目の前のアクセルがそのスマホに視線を落としながら何か悪態をついていた。

 

「超能力者……?」
 私がそう呟くのを、バカにしたような目つきで見やり、大げさに肩をすくめる。それはとても嫌味なものであったけれど、不快感を覚えている心の余裕などなかった。
「干渉できるっつったっしょ?」
 アクセルはニヤリと笑って、ゆっくりと足元を見下ろす。
 私が彼と同じように視線を向けると、僅かに彼の足元にノイズのようなものが走ったことに気づく。奇妙な黒いブーツ、それ以外の衣服は全て白。身体にフィットしたシャツもズボンも、汚れ一つない。でもそれはホログラムのようなものだった。彼の存在全てが。
 生身の人間じゃない。
 私は改めて彼を足の爪先から頭の上まで、まじまじと見つめ直す。
「あなたも幽霊なの?」
「説明、めんどいんだって」
 彼が持っていたスマホの画面を私に見せてきた。
 その中には、アクセルの姿があった。ただし、気を失って机の上に突っ伏している恰好で。
 そして、こうして私とアクセルが会話しているというのに、足元に蹲る和香はそれすらも気づかない。
「あなたも幽霊だけど、干渉できるってことは……和香と会話できる?」
「会話ぁ? こいつとか? そりゃできるけど」
 アクセルがその場にしゃがみこんで、目を細めながら和香の顔を観察している。「きったねえツラ。こりゃ、あんまり楽しめないかもなあ」
「何の話?」
「んー」
 アクセルはその場にしゃがみこんだままの姿で私を見上げる。普通、こういうのは不良というか、ヤンキーというか、まあ、あんまり関わりたくない人たちがよくやる恰好だと思う。でも、それが似合ってしまうというのは、美少年だからだろうか。
 そして、そんなことを考えている私というのも何だか変だった。
 朝までの私は、あれほどまでに空虚な人間であったというのに。
 何だか今は、何の悩みもないような……。
 死んでいるから、だろうか。
「結構ね、俺が持ってる力って危ないんだよね」
「危ない?」
「そ。俺はこうやって、色々なところに意識だけ飛ばすことができる。肉体は元の世界に置いたままでね」
 彼はまた、手にしたスマホを持って軽く振った。
「別の世界、だよね?」
「だね。文化も何もかも違うし、司法システムだって違う」
「何て国なの?」
「それ、必要な説明?」
 一瞬だけ、私は考え込む。そして、首を横に振った。
「……で、危険って?」
「うん? 意識と肉体が切断される可能性があるってこと」
「え?」
「戻れなくなるってこと。こっちの世界から、元の世界に」
「え、でも」
 私は眉を顰めて続ける。「身体は元の世界にあるんでしょう?」
「まーね」
 彼は低く唸りながら唇を尖らせた。「なんつーかさ、俺はさっきの部屋に閉じ込められてるんだよね。許されるのは、他の世界の覗き見。それと、探検」
「探検してどうするの。戻れなくなる可能性があるんでしょう?」
「うん。別の世界に意識を飛ばして、干渉する時に使う力の具合ではね、戻ることに失敗する。肉体だけあっちに残して、異世界空間の迷子ってやつになる。実体化にはリスクも伴うけどさ、やっぱ、楽しいんだよなあ」
 アクセルはそこで、床に転がっていたからのペットボトルに手を伸ばした。
 この部屋は、とても片付いているとはいえない状況だ。掃除なんてほとんどしていないんじゃないかと思えるほどに、飲み物の空き缶やペットボトル、コンビニのお弁当のゴミ、使い終わった割り箸、脱ぎ捨てられた靴下や洋服、洗濯籠に積まれたぐちゃぐちゃの洋服の山が雑然と存在している。
 手を伸ばせば何かのゴミがある、そんな中のひとつであるペットボトルに、アクセルは触れた。
 その瞬間、ペットボトルが転がった。

 

 和香が一瞬だけ遅れてそれに反応する。
 動いたペットボトルに視線だけ投げやって、身体を硬直させる。
 そして、少し離れた場所からドアが開く音が聞こえた。どうやら、和香の母親が玄関から出て行こうとしているらしい。鍵が外からかけられる音が続いて、その場に静寂が戻ると和香が恐る恐るといった様子で立ち上がろうと動き始めた。
「ねえ、あんた、ユーレイとかいうの信じる?」
 急にアクセルが和香に声をかけて、彼女の肩がびくりと震えた。慌てたように彼女が辺りを見回した瞬間、どうやら彼女の目に見知らぬ少年が映ったらしい。小さな悲鳴と、もがくようにばらばらと動く両足、両手。
「誰!? 誰よっ!?」
 和香の声は掠れていて、かろうじて聞こえるといったくらいの音量にしかならない。
「俺はどうでもいいんだ。あんた、すっごい恨まれてるよね? 身体がバラバラになって死んだやつにさ?」
 楽しげなアクセルの声は、この場には似つかわしくないものだった。
 和香はその言葉を理解するのに少しだけ時間を必要としたらしい。でも、すぐにその目に怒りの感情を浮かばせた。
「何を言ってるの? あんた、誰よ?」
「んー、説明めんどい。とにかく、急ぐぜ」
「何が、よ!」
「だからさ、あんたはバラバラになったやつに恨まれてる。そして、俺はあんたを殺すように頼まれたってわけ」
「はぁ!?」
 和香はその場に座り直し、痛みに身体中を震わせながら、さらに怒りにも震えていた。「あの女が何よ! 殺すように頼まれた? 幽霊? バッカじゃないの!?」
「……この女、うるせえなあ」
 アクセルが深いため息をこぼし、私を見る。和香も驚いたように私の方を見た。でも、その視線は宙を彷徨い、すぐにアクセルへと戻る。その口元には笑みの形があった。
「……何よ、まるでそこにあいつがいるみたいじゃない?」
「いるよ」
 アクセルは私を指さした。でも、和香はもう私の方を見ようとはしなかった。
「バカみたい。あいつは死んだ。惨めにね!」
「何で?」
 私は思わず呟いた。「何でそこまで嫌われる理由があったの?」
「何で嫌いなのかって訊いてる。あんたのそばで」
「幽霊が?」
 和香は肩を震わせながら笑い、アクセルを正面から睨みつけて続けた。「別に? 嫌いだから嫌い。それでいいでしょ?」
「だそーだ」
 と、アクセル。
「納得いかない」
 と、私が言うと。
「話せって言ってる」
「むかついたからよ」
 和香がよろけつつ立ち上がり、ゴミを蹴飛ばしながら隣の部屋である台所へと向かう。ダイニングテーブルと椅子はあるものの、そこで食事をできる状態なのかというのは疑わしい。でも、彼女は乱暴にテーブルの上にあったゴミを手で押しのけて、床の上に落とす。
「あいつ、昔から嫌いだった」
 彼女は椅子の上に腰を下ろし、テーブルに頬杖をついて表情を歪めた。それはきっと、頬にも目立つ痣があるから。きっと、そこが痛みを訴えたから。
 和香は露悪的な笑みを作る。
 いつも、私に向けていた悪意しか存在しない笑顔を。
「母子家庭とか言ってるのに、いつも平気な顔して笑ってるのも。他の連中と同じようなふりして、幸せそうにしてるのもね、むかついて仕方なかった」
「あんたんとこも母子家庭?」
 アクセルがゴミを蹴飛ばして笑った。「さっき、あんたを蹴ってたのは母親だろ? 掃除もまともにしてなさそうだし、あんたのこと、嫌ってそうだけど、それでも大切な母親ってやつか?」
「ただのクズよ」
 和香は吐き捨てるように言った後、ゆっくりと自分の頬を撫でた。「あいつも死ねばいいのに。そうすれば、この世界が少しは綺麗になる」
「へー、じゃあ、あんたは?」
「何が?」
「あんたも死ねば、この世界は綺麗になるんじゃねーの?」
「……かもね。でも、あたしは生きてる」
「生きる価値ってあるかい? この世界は生きてても楽しくないだろ?」
「バカなの? 死ねば負け、生き残った方が勝ち。生きるのが楽しくないのは当たり前だけど、嫌いなやつが死ねば少し幸せになれる」
「そんなもんかねえ?」
 アクセルは不思議そうに首を傾げ、そんな彼を見つめる和香の表情も少しずつ緊張がゆるんでいくのが解った。
「……あんた、本当に誰? それとも、何? 霊能者ってやつ?」
「何だそれ」
「違うの? それとも、ケイコが雇った便利屋か何か? あたしを殺そうって?」
「何だそりゃ」
「でもね、そう簡単に人を殺せるわけない。あたしだって……何度、あいつを殺そうと思ったかしれないけど、殺せなかった」
 そう言った和香の目は、一瞬だけ暗く濁る。
 そしてアクセルの瞳は、とても澄んでいた。
「母親を殺せなかったから、代わりに母親より弱いやつを殺した?」
「殺してないよ。勝手に死んだだけ。あたしは何もしてないのに」
 和香が嗤う。あまりにも見慣れた表情。以前と変わらぬ、その笑顔。

 

 彼女はこうやって、私を何度も殺すのだろうか。
 私の死は、彼女にとって楽しいだけのことだった。
 私の死で、彼女は厭な思いなんて何一つしていない。
 私の死で、彼女は苦しむこともなく、こうやって笑っている。
 それを見せつけられて、私はまた絶望している。

 

 私の死は。
 無駄な行為だった。
 和香を傷つけることなんて、何もできず。

 

「出てってよ」
 和香のその声で我に返り、私は顔を上げた。和香は、アクセルという存在を急に警戒したようだった。
「もう充分でしょ? ケイコに何を頼まれたんだか知らないけど、あいつは死んだんだから、もう終わり。だから、もう出てって。出て行かないなら――」
「だから、殺すんだって」
 アクセルは子供に言い聞かせるように、優しく言葉を発音した。「あんたの話を聞いたのは、そこで突っ立ってるヤツへの単なるサービス。後は、俺の時間」
「本気で言ってるわけじゃないでしょ? 簡単に人殺しなんてでき」
「できるんだな」
 アクセルはそこで和香のすぐ目の前に立って、その右手をゆっくりと上げた。
 その手の中にあったのは、スマホだったはずだった。でも、鈍い光を放ちながら、その形を変えていく。
 細長く、鋭く、鋭利な形。
 それは、ナイフのようなものへと変化して。

 

 和香が顔色を変えた。
「警察、呼ぶから!」
「何それ」
 アクセルは逃げようとする和香の髪の毛を掴み、そのまま自分の方へと引き寄せた。暴れる和香を簡単に押さえつけ、その耳元で嬉しそうに囁く。
「ボスとの約束。その世界に干渉する時は、誰かの許可を得た行動のみすること」
「離して」
「ありがとう。すっげえ久しぶりで、ぞくぞくする」
「ちょっと、ねえ!」

 

 そして。
 アクセルはそのナイフを和香の喉に押し当てて、ひどく優しく横に引いた。

 

 和香は言うなれば、クラスの中にいる女帝だった。
 周りに味方がたくさんいて、恐れるものなんて何もない。
 だから、警戒心というものはあまり感じられない人間だった。ずるがしこく、自分の立場を守るために嘘をつくことも多かったけれど、その嘘が白日の下にさらされるなんてこともない。
 仲間という群れの中で、小さな帝国を築いた女帝は、今、敗者となる。

 

「やめて、嘘」

 

 ――やめて。
 私は、一体何度、今までその言葉を口にした?
 絶対に報われない言葉。願い。

 

「嘘でしょ。痛い」
 和香が自分の喉を押さえ、そこから流れ出る血を傷口の中に押し戻そうとして、咳き込んだ。
 床に倒れ込んだ彼女は、さっきまで彼女の母親に暴力を受けていた時のように、ただ憐れな格好を見せている。

 

 悲鳴を聞きながら、私はぼんやりと考えた。
 こんなの、全然楽しくない。
 誰かを傷つけること。攻撃すること。
 不快感しか生まれない。
 あんなに、あんなに憎み、殺そうと思った相手が命乞いをしている様は、私の気分を楽にさせてはくれなかった。

 

 こんなの、全然楽しくない。

 

 私はそのまま、近くの壁に飛び込んだ。身体がすり抜けて、目の前に広がったのは小さなベランダと、曇り空。
 ベランダの柵は掴むことができない。もう、死んでいるから。肉体はここに存在しないから。
 私はただ、それほど高くない場所から地面へ向かって倒れこむ。
 ホームに滑り込んできた電車の前に倒れこんだ時のように。

 

 骨が砕ける音が聞こえた気がした。

 

「おーい、おいおい、ねーちゃんよー」
 アクセルの声も、微かに遠く。

創作小説「やられたらやり返すのが普通でしょ?」その2

「……あなた、誰ですか?」
 我ながら、奇妙な問いだと思った。だから、答えを待たずにスマホを裏返した。
 見た目だけで言うなら、何の変哲もないスマホだ。ただ、メーカーとか品番とかはどこを探しても見つからなかった。
 ボディはホワイト、傷もなく、新品に思えるほどに綺麗だ。
 誰かの落とし物なら、駅の人に届け出てこないと、と思う。私はスマホなんて持っていないけれど、それが高価なものであることくらい知っている。落とした人はきっと探しているはずだ。
 でも正直なところ、それに関わることは面倒なことだった。そんなことより、重要なことを考えていたはず。この場から逃げ出すこと。この場というよりも、この世界から。
「そんな、恨みがあるんなら殺せよ。おーい、聞いてる?」
 私がスマホを手に自分の考えの中に沈みこもうとする前に、また声が響いてきた。
 私の手の中で、その小さな画面の中では少年が不満そうに鼻の上に皺を寄せている。作り物のような顔。綺麗な顔。私とそれほど年齢は変わらないであろう、その顔。
 男の子なんて嫌いだった。
 学校で、私が皆にイジメられていても、誰も助けてくれなかった。それどころか、私を無視して、彼女たちと一緒に嗤った。
 みんな、みんな嫌いだ。
 この人だって。
 こんな綺麗な顔をしていても、きっと中身はクズみたいなものなのかもしれない。
 
 昨夜の、あの、男みたいに。
 
 全身が総毛だつ。
 お腹の奥にあるものがせり上がってくる感覚と、強烈な吐き気。私は喉の奥を鳴らしながら手で口を覆い、トイレを探して歩き出した。
 歩きながらスマホを自販機の横にあったゴミ箱に投げ入れる。
 死んじゃえ。
 みんな、みんな、死んでしまえ。
 
 ――恨みがあるんなら、殺せよ。
 
 彼の言葉が頭の中で蘇る。
 さっきのは何だったんだろう。
 テレビ電話ってやつだろうか。だとすれば、あんな綺麗な人が存在しているわけだ。そう、見た目だけなら綺麗。捨てたスマホのように。
 殺せたらよかった。
 昨夜の男は、死ぬべきだった。
 何とかして殺すべきだった。
 
 そして、和香も死ぬべきだ。
 むしろ、彼女こそ死ぬべき存在だ。
 私が死ぬよりも前に、彼女が。
 
 私はさっきのゴミ箱のところに戻った。辺りは行き交う人たちの姿が多く、ゴミ箱に手を伸ばせば奇妙に思われてしまうだろう。
 それでも、私は手をゴミ箱の中に突っ込んで中身を探る。若干の不快感を指先に感じながら、それは呆気なく私の手の中に戻ってきた。
 急いで辺りを見回したものの、誰も私の行動に気づいている様子はなかった。急ぎ足で通り過ぎていくか、手にしたスマホに視線を落としながら歩いていくか、だ。
 私はスマホを胸に押し当てるようにして歩き出す。
 そこで急に、私は学校カバンを持っていないことに気づいた。どこに置いてきた?
 昨夜は持っていた。でも、『あの時』以降は。
 確か、車を引きずり降ろされた時に、一緒に地面に投げつけられた。でも、私はそれを持ってくるのを忘れた。
 いつもの私だったら、慌てただろう。
 買い直すなんてことを考えたら。お母さんを困らせる、と思っただろうから。
 でも、今はどうでもいい気がした。
 
 そうだ、和香を殺したら、私も死ぬのだから。
 
「何だ、やる気になったのか」
 私の胸元でスマホが嬉しそうな声を上げている。「そうだよ、やっちまえば思ったより簡単なんだぜ」
 私はその声を聞きながら駅を出て、ロータリーのところで立ち尽くした。タクシーや車がひっきりなしに行き交う場所。誰も私なんて見ないで通り過ぎていく。でも、ずっとここに立っているわけにはいかない。学校が始まる時間帯に制服で立っていたら、きっと誰かが変に思う。
 私は近くにあるデパートに入ると、そのままトイレの中へと入った。個室の中でトイレの蓋の上から座り、改めてスマホを覗き込んだ。
「あなた、誰ですか?」
 もう一度彼に問いかけると、彼は唇の口角を上げて微笑んだ。
「俺の名前、必要?」
「はい」
 そう応えながらも、私はそれが間違いだと解っていた。「記号として必要です。会話上では、名前がないと」
「へー、うちのボスと同じこと言うね」
「うちのボス?」
 スマホの中の少年は肩をすくめ、僅かにつまらなそうに唇を尖らせる。
「あんたにゃ関係ない。でもまあ、名前は言っておくよ。俺はアクセル。アクセル・ジュニアと呼ばれることが多い」
「アクセル、ジュニア……」
 やっぱり、日本人じゃないんだ。
 こんなに日本語が流暢なのに。
「では、アクセル。あなたは日本人ではないですよね? どこの国の」
「おいおい、おーいおい、それって本当に必要な情報かね?」
「いいえ。ただの話のつなぎです」
「正直で結構だね」
 くくく、と彼は笑う。その肩が震え、その彼の後ろの部屋の様子がそれと同時にちらちらと画面に映ったけれど、ただの壁くらいしか彼の正体に関するヒントはない。真っ白な壁、窓すら映らない。ただ、屋内なのは間違いないと思われる光源。天井の方向が妙に明るい。
「さっき、あなたは殺せと言いました。何を知ってるっていうんですか」
「そうそう、こういう会話の方がいいね」
「私の何を知ってるっていうんですか。何か知ってるから言ってるんですか」
 私が口早に言うのを楽しげに見つめ直し、彼は頭を掻いた。
「俺が知ってるのはあんたの絶望と自殺願望、かな。さっきの、飛び込もうとしてたんでしょ?」
 明るく笑う彼の表情には、ただ無邪気さがあった。
「そうですね」
 私は彼に挑むように、噛みつくかのように続けた。「自殺しようとしました。電車に飛び込んで死んでしまおうと」
「よかったじゃん。成功したよね」
「え?」
 私は首を傾げる。
「あんたは電車とかいうやつに飛び込んで死んだ。身体が分割されたってこと、覚えてない?」
「え?」
 私は馬鹿みたいに言葉を吐き出した。
 何それ。私が、死んだ?
 
 その時、私の耳に響いた音。
 電車の耳障りなブレーキ音と誰かの悲鳴。
 ごりごりという、骨が砕ける音。
 
「……え?」
 私は思わず立ち上がり、トイレから出ようとして、急に目の前に年配の女性の姿が現れて悲鳴を上げた。私がトイレを出ようとした瞬間に、扉が開いてその人が入ってきた。私が悲鳴を上げていることにも気づかず、私の身体を突き抜けるかのようにして立っている場所を入れ替えた。
 そして、トイレのドアが閉まる。
「嘘」
「何が?」
「……死んだ、の?」
「そうだよ」
「何で?」
「自殺したからでしょ? 覚えてないって、面白いね」
 面白い?
 私はそっと手を伸ばし、トイレのドアに触れようとした。でも、私の指先はドアの硬さを感じることなく、まるで水に触れるかのように突き抜けた。
 
 ――何、これ?
 
 私はただ、その場に立ち尽くし、それからぎこちなく首を動かしてトイレの大きな鏡に目をやった。
 でもそこには、誰も映し出されてはいなかった。
 トイレの流れる音がして、さっきトイレに入っていった年配の女性が出てくるのを映し出してくれる鏡だというのに。私の姿はこれっぽっちも映らない。
「恨みを抱えて死んで、楽になった?」
 私の手の中のスマホは喋り続ける。「恨みは消えた? でもさ、自分が死んだことも忘れてさっきの場所にずっと座り続けてるってどんな感じ?」
「うるさい」
 私は思わず持っていたスマホを鏡に向かって投げつけた。
 いや、投げつけたと思った。
 なのに、スマホは鏡に叩きつけられることはなく、宙に浮かんでくるくると回る。その回転は少しずつ緩やかになり、画面を私に向けたまま動きをとめる。
「いや、マジ面白い。この世界って、人間が死ぬと魂が残るんだね、って意味で面白い。だから、思わず声をかけたんだよね」
「何よ」
 私の唇が震えた。「あなた、誰なの。何なの? これは一体、どういうことなの!?」
「さーて、ね」
「この世界って、なんのこと!? あなた、何で私に声をかけてきたの!?」
「だからさっき言ったじゃん。面白かったし興味があったから」
「意味わかんない! 何で私、私」
 
 死んだのに、ここに?
 
 死んだのに、どうしてこの世界は終わらないの?
 
 どうして、喉の奥にせり上げてくる不快感はこんなにも現実と同じように。
 
 私はその場に座り込んで、自分の顔を手で覆った。
 そうか、死んでいるから誰も私を見なかったんだ。
 やっと理解した。さっきまでの行動で、不思議に思ったこと。それは、誰とも視線が合わなかったことだった。
 駅にいる間も。ゴミ箱を漁っていた時も。駅を出て、ロータリーに出た時も。
 もう、学校が始まる時間だというのに、誰も私に気づかない。それは、私が死んでいるから?
 
「どうして、殺せと言ったの」
 どのくらいその場に座っていたのか解らない。だた、長い時間ではないだろうと思う。見上げたらそこには、スマホが先ほどと同じように浮かんでいたからだ。
「私は死んでいる。だとしたら、何もできない。和香を殺せない」
「ノドカって誰」
「……別に、それはどうでもいいよ」
「あっそ」
「でも、私が死んでいるなら。その後、どうなったの。それが知りたい。和香はどんな顔をしたんだろう。お母さんは……泣いてくれた、かな」
「感傷に浸りたいんなら、それは必要な情報かなあ。見にいく?」
「見に……」
 私はぼんやりとした頭のまま、ゆっくりと考える。
 そして、苦笑しながら首を横に振った。
「……やだ。お母さんを見たら、後悔しそうだからやだ」
「なら、そのノドカってやつを殺しに行く?」
「幽霊が何をできるのよ」
 私の喉から嗚咽が漏れた。それなのに、笑い声のようでもあった。涙がこぼれたのは、情けなかったから。
 あの女を殺さなかった自分に幻滅したから。
 自殺する前に、やらなきゃいけなかったことのはずなのに。
 
「ユーレイっていうのか、それ」
 少年――アクセルは興味深そうな顔つきで私を見下ろしている。「俺の世界では、魂というのは存在しない。人間が死ねば無に帰る」
「あなたの世界って?」
「説明めんどいからそれは省略していい?」
「私の時間は無限にあるんでしょう? 死んだ人間だもの。長い説明でもいいし」
「俺の時間は有限だけどね」
「つまり、あなたは生きてるってことね」
「そー。かろうじて生かしてもらってる」
「生かしてもらってる?」
「うん、だって俺、能力者だから」
「能力者?」
「そっちの世界にはいないんだろ? 特別な力を持つやつ」
「例えばどんな?」
「違う世界を行き来したり、何かを操ったり」
「超能力者ってこと?」
「へー、いるんだ? 超能力者、か」
「昔はいたのかも」
 私は小さく笑って見せた。「でも、万が一いたとしても、もう絶滅したんだと思う。もし、今も超能力者と呼ばれる存在がいるのだとしたら、目立たずに生きていけるはずがない」
「なるほどね。生きにくい世界だというのは俺のところとそんなに変わらないのかもな」
 そこで少しだけ、沈黙が降りた。
 彼にもっと訊いてみたいような気もしたけど、どうでもいいことのようでもあった。
 彼もきっと、深い意味で続けた言葉じゃないだろう。だから、私は話の筋を元に戻した。
 
「で、殺すって、どうやって?」
「ああ、それね」
 彼はそこで嬉しそうに手を叩き、画面に顔を近づけてきた。その表情を見て、唐突に気づくことがあった。
「あなた、人を殺したことがあるのね?」
 その問いに対する返事はとても簡単だった。
「うん」
「……そう」
 心が冷えるような気がしたけれども、それは心地よいものでもあった。
 別に、目の前にいるスマホの中の少年が人殺しだろうと、それとも現実ではないもの――私が気が狂った結果に作り出した虚実の映像だろうと、どうでもいいじゃないか。
「俺には特別な力があるのさ。何でもできた。気に入らない相手を殺すのも簡単だった」
「……うん」
「でもさ、俺の住む世界じゃ人殺しって凄い罪らしくてさ、捕まっちまったんだよね」
「私の住む世界でも同じだよ」
「ま、俺がゼロに戻ることは確定してた。能力者じゃないって思われてたからな」
「ゼロに戻る?」
「死ぬってこと。死体どころか細胞一つ残らず解体処分される」
「ふうん」
「でもさ、ただ処分されるのもつまんないよな。色々遊んでいるうちに、ちょっと面白いことが起きてね。こうして部屋に閉じ込められながら生きてる」
「つまり、その部屋から出られない?」
「うん。出られないのはこちらの世界だけの話でね。別の世界には遊びに行けるわけよ」
「……肉体ごと?」
「まさか! 意識だけだよ! 肉体ごと逃げられたら今ごろまた自由の身を満喫してるって」
「そりゃそうだろうけど」
「だけどさ、実体じゃないとはいえ、俺は別の世界に干渉できる。そこで人を殺すことだって可能ってことよ」
「そうなの?」
「そ! だから、手伝ってやんよ。お前が殺したいって思ってるやつ、殺させて?」
 
 邪気のない笑顔。
 それは本当にそうだったろうか。
 人を殺そうとするやつに悪意がないわけがない。でも本当に、目の前にいる少年には悪意なんて全くないように思えた。
 以前の私だったら、恐怖を感じていたかもしれない。
 得体のしれない少年なんか、関わりたくなかったはずだ。
 でも今は。
「お願いします」
 私は冷えた心のまま、ただ静かに言った。
 すると、アクセルは拳を上げて喜ぶ。もう、目の前にいる少年への警戒心は全て消えていた。
「じゃあ、急ごうぜ! 夕方になるとボスが見回りにくるからな、さっさと済ませて……いや、楽しむ時間だけは欲しいから、早く動こう」
 彼がそう言った瞬間、浮かんだままだったスマホが私の手の中に落ちてきた。
 咄嗟にそれを受け止めた瞬間、目の前に光が走った。
「ちょっと、何これ……」
 目を閉じて、恐る恐る目を開けた瞬間、目の前に広がる光景は変わっていた。
 
 学校だ。
 私が通うクラスの光景。さっきまでデパートのトイレにいたというのに、まるで夢の中のような展開の速さだ。
 授業が始まったばかりの時間帯らしい。クラスメイトの誰もが席について、それぞれ黒板を見たりノートに何か書き込んでいたり。
 そして、私が使っていた席は空いていた。当然のように、そこには花瓶が置かれている。
 見たことのある光景だ。
 和香は私に対する嫌がらせとして、花瓶を机の上に置いたことがあった。ただ、今、花瓶に生けられているような高価そうな花じゃなく、春先にその辺りの駐車場とかで生えていそうな貧相な花が飾られていたんだったか。
 面白いものだよね。
 本当に私、死んだんだ?
 本当の本当に?
 私はそのまま、廊下へと向かう。ドアなんて関係ない。身体は簡単にそこをすり抜けてくれる。
 和香は同じクラスじゃない。彼女のクラスは二つ隣。授業中だから静かな廊下を歩き、ドアをすり抜けてその中に入る。そこにいるであろう彼女の姿はなく、その席は空っぽだった。通学カバンも置いていない。
「……いない」
 私がそう呟くと、アクセルが「探すよ」と言ったのが聞こえる。
 探すって、どうやって? と不思議に思った瞬間、辺りに光が走った。まるで、レーザーか何かのような光。映画で見たような人工的な光だった。
 彼女の机と椅子が、まるで燃えているかのように輝き続けている。そして、時間を少し置いて消えた。
 このクラスにいた人間は誰もそれに気づいていない。
 教壇に立つ教師は、チョークで義務的な動きをしながら文字を黒板に残している。
 そして、生徒たちは少し、私語を発していた。教師も気づくだろうという小さな騒めき。でも、誰もそれを気にしないようだった。
「説明会は明日でしょ?」
「さすがに和香、出てこられないでしょ」
「あれだけイジメの話が出回っちゃね。ホント、バカだよねえ」
「警察も聞き込みにきたってホント?」
「でも、迷惑だよね。あの、死んだ子。うちの学校、変な噂出そう」
 あちこちで囁かれるそんな会話を聞いて、喉の奥が詰まったような感覚に襲われた。
 私の死は、ささやかな復讐になったのかもしれない。そこに同情はなく、苛立ちしか感じられない声音ばかりであったことがその証拠だ。
「でもさあ、ホントかな?」
 そこに、悪意たっぷりなひそひそ声も聞こえてくる。
「何が?」
「死んだ子。イジメだけじゃなくてさあ……ほら」
「やめなよ。気持ち悪い」
 
 イジメだけじゃなくて。
 
 ああ、そうか。
 厭だ。厭だ。
 
 みんな、知ってるんだ。警察がきた? じゃあ、知ってる?
 自殺の直前、私が、あの男に。
 
 唐突に湧き上がる感情。憎悪。自己嫌悪。それは不快極まりないまでに純粋に黒い何か。見境なく攻撃したくなるような何か――。
 
「やっちゃう?」
 アクセルが楽しげに囁く。「大丈夫、やれるよ? 気に入らないやつらを消してやれる。消すというよりも、切り刻む方が好みだけど」
「やめて」
 自分でも、何故そう言ったのか納得はできなかった。
 この学校の中で、知り合いはいても友達はいなかった。最初は友達になれそうだと思った人間全てが、私から離れていった。
 大嫌い。
 そう、大嫌いだった。
「私の目的は、和香だもの」
 そう続けた私の声は、情けないほどに震えていた。でも、これが正解だ。
 最初の目的である和香が死んでから、結論を出してもいい。そうでしょう?
 
「じゃ、その目的とやらがいる場所に移動」
 アクセルがそう言った瞬間、また目の前に明るい光が弾けた。
 
「本当、解ってんの?」
 目を開ける前に聞こえた声は、和香のものじゃなかった。苛立ち、とげとげしい感情をむき出しにしたそれは、私の知らない声だった。
 でも、それに続いた泣き声のようなもの。
 それは私がよく知っているもので。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 必死に繰り返される謝罪の言葉は、掠れて今にも消えてしまいそうだった。
「あんたのせいよ。仕事、首になったらどうしてくれんの」
 私が目を開けると、目の前には派手な化粧をした女性が目尻を吊り上げて拳を震わせて立っていた。和香によく似た顔立ちから、それが彼女の母親なんだろうと気づかされる。
 そして、その女性の足元に蹲っているのが和香。
 顔に目立つ痣を作り、怯えたような目つきでその女性を見上げた瞬間、凄まじいまでの蹴りが彼女の胸元に入れられた。
 痛みによる悲鳴は、和香の喉の奥に飲み込まれたようで、くぐもった奇妙な音へと変化した。
「イジメとか! バカじゃないの!? 何で、そんな余計なことをすんの!?」
 そう言いながら、狂ったように蹴りは続く。
 床に彼女が吐き出した血が飛び散るのが見えた。
「……ごめ、んな……」
「ああ、もう!」
 和香の母親は、そこで乱暴な足音を立てながら隣の部屋へと歩いていく。その途端、私の足元で和香が安堵の息を吐いたのが解った。
 
「目的ってコレ?」
 アクセルが呆れたように声を上げる。
 そして、私の声も似たようなものになった。
「そう」
 この、床に這いつくばっている彼女が、私の恐怖と憎悪の対象。
 それなのに。
「何、これ」
 私は茫然と呟いた。
 こんな、情けない恰好をしているのが『あの』彼女なの? こんな、ちっぽけな存在が?
 
 でも。
 和香は床の上で笑っていた。
 
「でもね、圭子。あたしの勝ちよ。あんたは死んで、あたしは生きてる。あんたが負け犬で、あたしはそうじゃない。だから、あたしは幸せなんだ」
 その、歪んだ唇は青紫色に腫れていた。
 ちっぽけな存在かもしれないけれど、確かに憎むべき醜悪な笑顔だった。

創作小説「やられたらやり返すのが普通でしょ?」その1

「――白線の内側に……」

 

 いつもと同じ朝。

 駅のホームには、通学、通勤のために電車に乗り込もうと列を作って並ぶ人たちの背中があふれ返っていた。

 ほとんどの人たちは周りの人間に気を払ったりはしない。電車が止まり、ドアが開くのを待つ。電車から降りる人がいなくなってから、素早く電車の中に入る。その動きは急いでいるように思えた。

 私はベンチに腰を下ろしたまま、立ち上がることができなかった。

 いつもなら、私が乗らなくてはいけない時間の電車だ。これを逃すと、学校に着くのは完全に遅刻になってしまう。

 

 死んでしまったら、解決するだろうか。

 この電車の前に飛び出したら、誰かが悲しんでくれるんだろうか。

 

 そんなことを考えている私は、ただのバカなのかもしれない。

 きっと、私が死んでもあいつらは悲しむわけない。それどころか、いつものように嘲笑って終わりになる。邪魔な女が消えたと喜ぶだけ。

 それが悔しい。

 でも、もう限界だった。

 

「ケイちゃーん、お金貸して?」

 そう言った三住和香の声は、目を閉じて聴いているだけならとても可愛らしい声だと言える。

 地毛だという彼女の髪の毛は少し茶色く、細身の身体つきと派手な顔立ちによく似あっていた。

 私は彼女と小学校から同じ学校に通っていて、小学生の頃はそれなりによく会話をした。

 でも、いつしか上下関係ができた。そのきっかけはよく解らない。

 彼女は友達も多く、私という存在はクラスの中にいる知り合い程度。

 彼女は彼女とよく似た人たちと付き合っていたし、クラスの中でも目立つ存在だった。それは中学に上がってからも変わらなかった。

「可愛い時計じゃん」

 いつだったか、誰かがそう言うのが聞こえ、和香が低く笑う声がそれに続いた。

「でしょ? パクってきたの」

「え、マジ?」

「マジマジ。結構簡単だったよ。ちょっと、つないである紐みたいなのを切るのに手間取ったけど」

「やるじゃーん」

 万引きか。

 私はそう気づくと、ちょっとだけ彼女に対する嫌悪感が芽生えた。そして、それを受け入れている彼女の友達もどうかと思った。

 でも、自分には関係ないことだったし、学校の先生に言うこともしなかった。彼女たちはああいう人間なのだ。関わらずにすめば、それでいい。

 そう思いながら、上辺だけの笑顔で彼女たちとクラスメイトとして接していた。

 それを気づかれたのだろうか、ただ単に私のことが気に入らない存在だと思ったのか、いつからかイジメが始まった。

 

 最初は、何故か私を汚物扱いすることから。

「きもーい」とか、「くさーい」とか、すれ違うたびに言われるようになった。それに追随するかのように、彼女の周りにいる人間も私をそんな風に接するのが当たり前になった。

 正直、そのくらいだけだったら我慢できた。

 別に、中学には彼女たちだけがいるわけじゃない。他に仲良くしてくれる友人もいたし、気にしなければ一日が安穏として終わる。

 それがだんだん時間が過ぎるごとに彼女の態度は悪化していく。

 私がおとなしく受け入れていることが嬉しかったのか、それとも笑って誤魔化すような態度の私が気に入らなかったのか、彼女は『増長』した。

 正に増長というにふさわしいイジメだった。

 言葉だけじゃない、物理的な攻撃。

 

「ケイちゃんちって、母子家庭なんだって?」

 ある時、彼女は取り巻きの連中を周りに従えつつ、私を見下すかのように言った。その声には悪意しかない。そして、歪んだ笑みはただ醜かった。

 放課後、ほとんどのクラスメイトは部活に行ってしまって、教室の中には彼女たちと私しかいなかった。

 私は美術部に所属していて、美術室に向かおうと荷物をまとめていた時のこと。

「母子家庭ってアレでしょ? 生活保護ってやつ受けてんじゃないの?」

「えー、やだ、それって寄生虫じゃーん」

 そんなことを急に言われて、私は思い切り眉を顰めて首を横に振った。

「そんなんじゃないよ。お母さんはちゃんと」

「うわ、口ごたえするとか、何様?」

 和香の隣にいた女の子が私の肩をどついてくる。そして、私の肩を触った手を驚いたかのように見つめ直し、嫌悪の声を上げる。

「やだ、くっさ! 母子家庭ってお風呂にも入れないの? くっさいよ、こいつ!」

 お風呂にだって毎日入ってる。

 お母さんだって、ちゃんと働いてる。お父さんはいないから、その分、私に苦労をかけないように、残業だってしまくってお金を稼ぐ。生活保護なんて受けてない。

 それなのに、彼女たちは勝手に私を――私とお母さんを生活保護を受けているものだと決めつけて貶す。

 何なの、この人たち。

 その頃はまだ、私だって彼女たちに対する反抗心があった。彼女たちを睨み、その言葉を否定しようとした。

 でも結局は、多勢に無勢というやつだった。

 何を言っても、どうやっても彼女たちの態度は変わらなかった。

 

 そして、カツアゲされるようになった。

 

生活保護でもらったお金なんでしょ? 返してもらわなきゃ駄目じゃん」

 それが彼女たちの言い分だ。

 嫌がる私を押さえつけ、通学カバンを取り上げて財布を漁る。そして、毎月のお小遣いを取り上げられた。

 その頃から、私の周りから友達という存在が少しずつ消えた。

 いつも仲良くしていた友達が、和香たちの存在を恐れたのか、それとも彼女たちの嘘を信じたのか――いや、きっと巻き添えになることを恐れたのだろう――、遠巻きに私を見るようになった。

 私は助けて欲しかったから、最初は友達に言った。

「助けて。何をされているのか先生たちに言ってくれる?」

 

 でも、無視された。

 ぎこちなく笑いながら、私から遠ざかる。

 嘘でしょ?

 じゃあ、私が先生に言うしかない?

 

 でも、怖かった。大事になってしまったら、高校進学はどうなるだろう。

 

 私が我慢していたら、終わるかもしれない。

 中学にいる間の短い時間、我慢していれば。

 でも、何故か和香が私と同じ県立の高校に進学して絶望に変わった。

 私がその高校を選んだのは、『県立であること』、『絶対に落ちないランクの学校であること』。万が一、受験に失敗したら別の学校を受けるなんて考えられなかった。

 先に私立の学校を受験するなんてことは、家庭のお金的に厳しかった。お母さんを苦しめたくなかったから、できるだけお金をかけずに終わらせたかった。

 和香はその学校よりも偏差値の高い女子高に行くと聞いていた。

 だから安心していた。

 中学を卒業すれば、全部終わるのだ、と。

 

 でも、高校に進学しても何も変わらなかった。

 変わったのは、和香を取り巻く連中の顔ぶれだけ。

 その連中も、和香から何か吹き込まれたのか、私とお母さんが生活保護を受けている寄生虫だと思い込んでいたようだった。実際には違うと言っても、笑って聞き流された。

 そして、ただ不安な毎日が始まった。

 

 お母さんは毎日、帰りが遅かった。いつも、疲れて仕事から帰ってきた。体調もあまりよさそうではなかったし、帰ってくると必要な家事をこなして眠る。

 何度か相談したいと思ったけれど、できなかった。

 顔色のよくないお母さんに負担をかけたくなかった。

 

「お金貸してー」

 高校に進学してからのイジメというものは、暴力以外のものも含まれるようになった。単純に彼女たちの狙いは、私の財布だ。

「国からお金、もらってるんでしょー?」

 そんなことを笑いながら私に何度も話しかけ、絶対に戻ってこないと知りながらお金を差し出す。そんな日が続いた。

 まだ、この頃は多少なりとも、学校の先生に相談したら何か変わるかもしれないという期待はあった。学校にお母さんは呼び出されるかもしれないけど、カツアゲの件が公になれば、綺麗に片が付くような気がした。

 でも、暴力がさらに激しくなってくると、それも揺らいだ。

 

「その顔がムカつくんだよね」

 と言われながら蹴られ、殴られる。

「見えるところは駄目だよ。バレるじゃん」

 彼女たちも多少はイジメているということに対する後ろめたさはあったのか、それとも単純にこのイジメという遊びを長引かせるために頭を絞ったのか、目に見える場所に怪我はさせないようにしているようだった。

 ただ、制服の下の身体は彼女たちの暴力による内出血の痣はそこら中にあったし、これを先生に見せればいいとも思った。

 このままじゃダメだという気持ちも確かにあったし、何とか彼女たちに逆らわなくてはいけないという焦りもあった。

 でも。

 でも。

 

 ある時、私は彼女たちに引っ張られて学校の外へ連れ出された。

「カラオケじゃダメだよ。あそこ、監視カメラあるじゃん」

「じゃあ、どこ?」

「サリナんちは? まだ両親、帰ってきてない時間でしょ?」

「えー? 和香んち……遠いかあ」

 そんな会話を聞きながら、私は何とか逃げ出そうとタイミングを見計らった。でも結局、暴れるたびに足に蹴りを入れられ、私の身体は委縮して彼女たちに逆らうことができなかった。

 つくづく、ここで逃げ出せていれば、と思う。

 でも、後の祭りだ。

 

「この写真、ネットに流されたくなかったら解るよね?」

 和香はそう言って嗤った。

 歪んだ笑み。

 醜い笑み。

 

 私はその日、サリナという和香の取り巻きのうちの一人の家に連れ込まれ、無理やり制服をはぎ取られてスマホで写真を撮られた。

 下着すらつけていない、ところどころに痣が残る身体。

 必死に暴れ、写真を撮られまいと誰かを殴った覚えもある。でも、殴った誰かに腹を蹴られてその場に蹲った。そのみっともない恰好を必死に小さくして隠そうとしている間、スマホのシャッター音は途切れることがなかった。

 

「正直、お金、足んないんだよね」

 和香は鼻を鳴らしながら言う。「うちら、遊びにいくのにあれっぽっちじゃさ、何もできないの。だから、この写真をばらまかれたくなければ、ちょっとは頭と体を使いなよ」

「やめてよ……」

 私はただ泣いた。

 みっともなくてもかまわなかった。お願いします、と彼女に頭を下げた。裸のまま、身体をなんとか隠そうと必死に両腕で自分を覆いながら。

 写真を消してもらわなきゃ駄目だ。ただ、それだけが頭の中にあった。

「やーめーてーよーお」

 バカにしたような彼女の声が私の頭の上で響く。

「うわ、似てるー」

「バカっぽーい」

 そして、それに続く馬鹿笑い。

「どうして?」

 私は泣きながら叫ぶ。「私が何をしたっていうの!? 私、何かした? 何でこんなことするの!?」

「マジになっちゃってうぜー」

 和香はそこで笑みを消して私の髪の毛を掴んで引き上げる。その痛みに悲鳴を上げ、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているであろう顔を彼女に向けながら懇願した。

「先生には絶対言わない! だから、もうやめて!」

「やめてください、でしょ、そこはさー」

「やめてください! お願いします!」

「ムカつくんだよね。あんた、頭がいいのか何だか解んないけどさ、うちらをいつも馬鹿にしたような目で見て、ずっと気に入らなかったんだよ」

 和香の声は冷ややかだった。

 そして、いつものような嘲笑はそこにはなかった。

「底辺は底辺らしく、似つかわしい態度ってもんがあるでしょ? なのにさ、自分は正しいって顔でうちらを見てるのが気に入らないっての」

 正直、彼女が何が言いたいのか解らなかった。

 ただ、私は自分でも意味の解らない謝罪の言葉を繰り返す。

 もう、厭だった。

 殴られるのも、お金を巻き上げられるのも、何もかも厭だった。

 

「援交ってあるじゃん?」

 和香がそこで意地の悪い笑みを浮かべた。「お金がないんなら、やってきなよ」

「えん……?」

 私はただ茫然として言葉を繰り返す。

 そして、一瞬遅れてやってきた嫌悪感に吐き気すら覚えた。

「やだ、そんなのは!」

「簡単だよ。金持ちのおっさんに近寄って、親に暴力受けてます、ご飯食べてませーん、とか言って金を引き出せばいいだけ」

「やだよ、やだ」

 まるで幼児のように「やだ」しか言わない私を見下ろしながら、彼女はただ笑う。

 ――嗤う。

「おぜん立てはしてあげる。うちら、やっさしー」

 

 もう、駄目だ。

 お母さんに言わなきゃ。

 先生に言わなきゃ。

 誰かに助けてもらわなきゃ。

 

 もう、私にはどうすることもできない。

 そんなことを考えながら、私は家に帰る。暗くて、誰もいないアパートの一室。夜遅く帰ってくるお母さんのために、ご飯の準備をしながら必死に考える。

 

「ごめん、ちょっと熱があって。明日、仕事から帰ってきてから聞くね」

 そんな言葉がお母さんから返ってきた時、何とか話を聞いてもらおうと食いついた。ちょっとだけでいい、相談に乗ってもらえたら。

「ねえ、圭子、お母さん、体調良くないの。解ってくれるよね?」

 重ねてそう言われた時、私は泣きそうになって唇を噛んだ。

 いや、涙がこぼれたのを見られたくなくて、黙って自分の部屋に駆け込んだ。その背後に、お母さんの深いため息を聞きながら、どうしてこうなってしまったんだろうと『何か』を恨んだ。

 

 何がいけなかったの?

 私、何も悪いことしてない。

 なのに、何でこんな目に遭うの?

 

「ほら、行ってきなよ」

 翌日の放課後、私は和香たちに腕を引かれて駅前のコンビニにいた。私の周りには和香の取り巻き連中がいて、どうやっても逃げられそうにない。

 彼女たちの視線の先には、駅から出てきたスーツ姿の人間がたくさんいる。

「誰でもいいよ、話しかければ」

 私はどうしても、それはできなかった。

 涙を浮かべながら俯く私を見て、和香が舌打ちする。そして、私の腕を掴んでコンビニから出た。

「人がいっぱいいて恥ずかしいんなら、ほら」

 駅から離れ、路地裏へと向かう。

 空は暗くなっていて、周りの居酒屋や飲食店賑わい始めている。そんな中、私たちは細い路地裏を歩き、薄暗いどこかの駐車場の前に立っていた。

 仕事帰りのサラリーマンが、駐車場にとめている自分の車に乗り込もうとしているのが見えた。

「できない」

 そう言った私の前に、和香がスマホを差し出してきた。

 その画面には、どこかのSNSらしきサイトがあった。

 そこに張り付けられた裸体。痣はあまり目立たなかったし、顔も写っていないけれど、間違いなくそれは私の裸だと解った。

「すっごいよ、昨日の夜アップしたんだけど、コメントめっちゃついてる。次は顔出しといこうか?」

 

 身体が震えてたまらなかった。

 嘘でしょ?

 本当に?

 

 絶対に上手くいくはずなんてない。

 今まで、彼氏なんていたことない。クラスの男子と話すことだって滅多にない。それなのに、私が誰か知らない大人の男性に声をかける?

 無理だ。

 でも、やらなきゃ次は。

 

 そして。

 

 この男性からお金をもらうか、盗んで逃げる。そうしなきゃ、私は。

 

 いや、違う。

 この男性に助けを求めれば、何かが変わる? 正直にイジメを受けている説明して、助けて欲しいと言えば。

 声をかけて、自分の身体についた痣の原因を説明し、援助交際を無理やりさせられそうになっていることを伝える。もう、警察沙汰になっても構わない。

 何とかしなきゃ、駄目だ。

 私は背後に和香の視線を感じながら、その男性に声をかけた。

 心臓が厭な音を立てている。

 

 ――助けて、ください。

 

 そう言って、困惑する男性の顔を見上げた。

「……えっ、そうなの? 嘘じゃないの?」

 彼は駐車場の真ん中で、困ったように辺りを見回した。和香たちはどこかに隠れているのか、こっそり私もその姿を探して見回してみたけど見つからなかった。

「でも、それが本当ならまずいでしょ。警察いく?」

「……はい、お願いします」

 これは、一世一代の賭けとも言っていい状況だった。もう、警察の手を借りなきゃどうにもならない。そういうところまで来ているはずだ。

 

 そして、彼に促されるまま、私はその男性の車に乗り込んだ。

「派出所より警察署の方がいいよ。その方がちゃんと話を聞いてくれる」

 男性がそう言って、車を走らせる。

 でも、彼は結局、警察署にも派出所にも行かなかった。焦る私を横目で見て笑いながら、「それが本当だとしても、まず、身体にある痣とか見せてもらってからだよね」と意味ありげに言う。

 

「やめてください」

「おろして」

「警察」

 

 何度も言った。

 凄いスピードで走る車から飛び降りようかと本気で思った。

 

 でも、その夜。

 私は彼に連れていかれたどこかの山の広い駐車場で。

 その車の中で、乱暴された。

 

「電車が参りますので、白線の内側に……」

 

 私はただ、電車がホームに入ってくるのを見つめ、発車するのを見送っていた。

 死んでしまったら楽になれる。

 何もかも終わる。

 昨日は結局、家に帰らなかった。帰れなかった。

 あの男性に乱暴された後、山を下りた場所で捨てられるかのように無理やり車から引きずり出された。

 そして私は、ただ歩いた。補導されてもおかしくない状況だった。でも、不思議と誰も私に声をかけてこなかった。深夜の繁華街を通り抜ける時も、周りが騒々しいだけで私の頭の中は静かだった。

 身体が痛かった。気持ち悪かった。自分が汚い存在になったことを理解していた。

 

 私は駅のベンチに座り込んだまま、ただ線路を見つめる。

 もう、無理だ。

 何も考えたくない。

 

 生きていたく、ない。

 

 そう考え、そっと顔を両手で覆う。涙がこぼれるのが解った。

 

「何で殺さないの?」

 

 それは最初、幻聴だと思った。

 男の子の静かな声。小さく、だけど間違いなく確かに聞こえた。

 私は一呼吸おいてから、手を下ろして辺りをそっと見回した。

 駅のホームには忙しそうな人たちの姿がたくさんあって、誰がしゃべったのかは解らなかった。

 誰も私を見ていないのは確かだった。

 でも、気づけばベンチの上、私のすぐ横に誰かのスマホが置きっぱなしになっている。画面は光っていて、何かがそこに映っている。

 私はもう一度辺りを見回してから、そのスマホを手に取った。

 

「バカじゃねーの。そこは復讐でしょ?」

 その画面の中で、見知らぬ少年がそう言った。

 黒くて短い髪、淡い緑色の瞳。日本人じゃないと一見して解る、美少年。アイドルかと言われてもおかしくない、完璧なまでに整った顔立ちの少年が私を馬鹿にしたような目つきで見つめている。

「……何これ。動画サイトとか、何かのアプリ?」

 私が困惑してそう呟くと、少年は片眉を跳ね上げて「はあ?」と言った。

 明らかに私の声に反応してるようだ。

「何だかその世界の人間ってバカっぽいな。やられたらやり返す。これ、普通でしょ?」

 彼がそう続けるのを、私はただぼんやりと見下ろしていた。

暑いときには何もできない。

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連日暑い日が続きます。

あまりにも疲れ果てて何もしたくなくなる日には、適当にネット徘徊したりDVDとか見たりします。

 

夏といえば、昔は恐怖体験とかのテレビ番組とかあったと思いますが、今はあるんでしょうか?(我が家にはテレビがないので解りません)

心霊体験とかの番組って、随分流行ったものですが、今はそうでもないのかな?

 

私といえば、正直、海外のホラーは大好物ですが邦画のホラーは結構苦手です。面白いけど後味が悪かったりして残るよね。

 

でも、「リング」とか「呪怨」とか「回路」とか「輪廻」とか「女優霊」とか「着信アリ」とか、結構好きだったなあ。

 

それに対して、洋画のホラーは笑えるので好きです。

「スクリーム」とか「ラストサマー」とか「エルム街の悪夢」とか「ショーン・オブ・ザ・デッド」とか「キャビン」とか。

ドッキリ系が多いよね、海外の場合。「ファイナルディスティネーション」辺りが典型的。

 

でも、笑えるホラーといえば、どうしても忘れられないのが「ミステリーツアー」です。

あれほど突き抜けたC級ホラーにはなかなか出会えない。

キャラ立ちすぎ、元FBI捜査官はすぐ死ぬ、殺人鬼と戦うのにテニスラケットでボールを打つ、ゆるキャラ着ぐるみを着て死ぬシュールさ、不死身の殺人鬼(お前、エイリアンに出てきたアンドロイドだろ、というくらいに死なない)、っていうか、殺人の動機がそれってどうよ、とか。

 

まあ、何が言いたいかと言えば。

 

暑いし仕事忙しいし休みが欲しいし、すっごく疲れたから頭は使いたくないし。

とにかく、休みには久々にホラーDVDを借りてきたいということ。やっぱり疲れているときには気分転換は必要だ!

本日の手抜きご飯。

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暑い日が続きますが、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

仕事帰り、スーパーに寄っても肉なんて見たくない! みたいな感じになります。

そうすると、こんな感じに手抜きになる。

 

ネギを刻むのも面倒なので、写真のこれを使う。

で、買ったはいいけど、この薬味をどうやって使い果たそうか悩み中です。冷蔵庫に保管しているけれど、あんまり長期間は保存できないだろうし。

 

とりあえず、ところてんに入れる。

 

終了。

 

どうしようかなあ。他に使い道が思い浮かばないので、しばらく蕎麦三昧といくか。